目次
『三体』
概要
劉慈欣によるSF小説『三体』は、2006年に中国で連載され、2020年にはNetflixでドラマ化されました。2024年現在、物語は3部作として刊行されています。
一部:異星文明とのコンタクトを描く「別世界との接触編」
二部:異星文明との対決を描く「別世界との対決編」
三部:その後の世界を描く「別世界とのその後」
評価:81点
あらすじ(ネタバレ含む)
一部:コンタクト編
主な舞台は中国。科学者の謎の自殺事件をきっかけに、科学者の汪淼と刑事の史強が事件を追うバディストーリーです。調査の中で2人は、謎のVRゲーム「三体」にたどり着きます。このゲームには、異星文明「三体文明」とのコンタクトの秘密が隠されていました。
物語は文化大革命時代の中国から始まります。文化大革命で父親を目の前で失った葉文潔は、紅岸基地に連れて行かれ、そこから三体文明との接触が始まります。物語が進む中で、三体文明の存在とその危険性が明らかになります。そして、人類が三体文明に対抗する術を模索するものの、物語の結末では、地球文明は三体文明にすでに敗北していることが判明します。
二部:対決編
三体文明の侵略が400年後に予定されていることが判明。人類はその脅威に備えるものの、三体文明が送り込んだ「ソフォン」というスパイによって、地球の科学技術の進歩や作戦は監視され、妨害されます。
この状況を打開するために、「面壁者計画」が始動。4人の「面壁者」が選ばれ、それぞれが秘密の作戦を立案します。しかし、三体文明側は「破面者」と呼ばれる協力者を用いて、その作戦を暴こうとします。
物語は、面壁者の計画とそれを破る破面者の戦いが描かれます。やがて探査艇が地球に到達し、人類の宇宙艦隊との対決が起こります。しかし、圧倒的な戦力差の前に人類は敗北。最終的に、面壁者の秘密作戦によって、地球文明と三体文明は不可侵条約を結ぶ形で一時的な平和が訪れます。
三部:その後
三体文明との不可侵条約下で、地球文明は技術提供を受けながら発展します。一方、面壁者計画と並行して進められていた「階梯計画」が描かれます。この計画では、三体文明にスパイを送り込むことが目的とされました。
程心という女性主人公を中心に物語が展開。彼女は計画に関与し、友人である雲天明をスパイとして送り出す決断をします。しかし、彼女の選択が思わぬ結果を生み、やがて太陽系全体の滅亡を招くことになります。
最終的に、太陽系は破壊されるものの、一部の人類と程心自身は生き延びます。この結末は、ハッピーエンドともバッドエンドとも受け取れる内容です。
テーマと特徴
1. 中国的視点と暗黒森林仮説
三体シリーズでは、「暗黒森林仮説」という宇宙の過酷な原則が描かれます。これは「脅威になりうる文明を発見したら、先制して排除するのが最適解」という理論です。この考え方は、中国の歴史や地政学的な経験に基づく部分が多く、他のSF作品には見られない独自性を持っています。
2. 過去のSF作品へのオマージュ
『三体』にはアーサー・C・クラークの『幼年期の終わり』や『2001年宇宙の旅』、小松左京の『日本沈没』など、多くのSF作品から影響を受けた要素が散りばめられています。例えば、ソフォンという存在は『幼年期の終わり』の宇宙人に類似しています。
3. 主人公像の新しさ
三部の主人公・程心は、従来の「世界を救う英雄」とは異なり、その愛ゆえに世界を破滅させるキャラクターとして描かれています。この点は、日本のアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の碇シンジや『魔法少女まどか☆マギカ』の暁美ほむらを連想させます。
まとめ
『三体』は、一部から三部にかけて、異星文明との接触から対立、そしてその後の人類の運命を描いた壮大なSF作品です。中国の歴史的背景や地政学的視点を織り込みつつ、SFの古典作品からの影響も強く感じられます。これにより、独特の世界観とリアリティが生まれています。
本作をより深く楽しむためには、小松左京やアーサー・C・クラークの作品を併せて読むと、物語の背景やテーマがより鮮明に理解できます。これらの要素を踏まえて読むと、『三体』の評価はさらに高まるでしょう。