目次
『はだかの太陽』〔アイザック・アシモフ〕
『はだかの太陽』は、アイザック・アシモフが書いた小説であり、『鋼鉄都市』の続編です。主人公は前作と同じく私服警察のイライジャとロボットのR・ダニール。前作で宇宙人の殺人事件を解決した実績から、新たな事件の捜査を依頼されます。今回の舞台は、ソラリアという星で発生した殺人事件です。『鋼鉄都市』とは異なる未来像が描かれている本作。前作では、ドームに囲まれた暗い世界観が特徴でしたが、今作ではそれとは対照的に、輝ける未来を思わせる世界が広がっています。
評価: 91点
ソラリアの世界観
ソラリアでは多数のロボットが働いており、作中ではローマ時代のように市民階級が人間で、奴隷階級としてロボットが存在しています。労働階級のない理想的な社会として描かれています。2024年の現代では、FIRE(Financial Independence, Retire Early)と呼ばれる早期リタイアが話題になっていますが、ソラリアはその実現した未来社会とも言えるでしょう。
この世界では、少数の人々が広大な土地に住み、他の人とのコミュニケーションはSkypeやZoomのような通信手段で行われます。そのコミュニケーションは夫婦間であっても例外ではありません。労働をロボットに任せ、人間は自分のやりたいことだけをやる――まさにユートピアです。しかし、その輝かしい世界でなぜ殺人事件が起きたのでしょうか?
謎の殺人事件
殺害された男性の容疑者は彼の妻。しかし、妻が犯人だと断定できない理由がいくつかあります。ソラリアでは、夫婦であっても直接会話することはなく、凶器も不明で、女性の力での殺害が可能かどうかもわかりません。イライジャとダニールは、この不可解な殺人事件の謎に挑みます。
表と裏の世界
一見ユートピアのように見えるソラリアですが、その裏にはディストピアが潜んでいます。現実世界でも、私たちが向かいつつある未来の一端を示唆しているかもしれないと考えさせられる作品です。
ソラリアの住人たちの価値観は、2024年の日本人にとって理解しがたく、拒否反応を引き起こすかもしれません。ソラリアでは、人々の寿命は1000年単位であり、夫婦は恋愛結婚ではなく指定された男女が組み合わされます。生まれた子供は施設に送られ、遺伝子検査で欠陥が発見されると処分されます。子育てもロボットに任せ、人間関係は最小限に留められます。
SF的視点と現実への問いかけ
SFとして楽しむポイントは、その世界の住人たちがどのような価値観で物事を判断しているのかを知ることです。現代の日本人の価値観で善悪を考えるのではなく、その世界においてどのような価値観が育まれるのかを理解しようとすることで、作品への理解が深まります。
現代日本では少子化が進んでいます。また意識されておらず表面化されていませんが能力が無い人は能力がある人により排除されていっている。ある意味、ソラリアとは未来の日本とも考えれる部分があります。
イライジャとダニールの関係
今回もイライジャは困難に立ち向かいながら事件解決に挑みます。相棒のダニールも監視役として活躍しつつ、イライジャとの凸凹コンビとして物語を進めていきます。今作では別々に捜査を行う場面もあり、SF的な価値観や考え方が試されます。
イライジャは閉ざされた世界で生まれ育ったため、外の世界に対して広場恐怖症のような反応を示します。閉じられた世界で生まれ育ち死んでいく人として、壁が存在しない世界に行くと恐慌状態となってしまいます。その状態が続けば命が危ういとR・ダニールは外の世界を見せないような工夫を取り入れていました。しかし、彼はその恐怖を乗り越え、ソラリアでの捜査を進めていきます。また、捜査を進めソラリアの状況が分かるようになると、前作で地球の都市を飛び出し新たな星を開拓する思いをさらに強くしていきます。
この姿には現代の日本でFIREを目指す人々や、副業を始めたり会社を辞め独立を目指す人々が共感できるかもしれません。
ダニールは母性のオーロラからの命令もありイライジャを助けようとしますが、イライジャと意見が分かれた際に彼によって幽閉されてしまいます。ロボット三原則の穴が明らかになるなど、物語のクライマックスで重要な役割を果たします。
最後のクライマックスで明らかになる事実は推理小説好きな人にもあっと驚かせる結末が用意されています。
結論
『はだかの太陽』は、推理小説としても過不足なく楽しめる作品であり、イライジャとダニールの関係の変化、現代日本の問題を先取りしているような内容が詰まった一品です。読んで損はありません。