目次
ソロモンの偽証(宮部みゆき)
評価: 92点
宮部みゆきは、日本ミステリー界でもトップクラスの作家です。彼女はファンタジー小説も手掛けていますが、本作は純粋なミステリー小説となっています。
今作の読みどころ
本作は中学生が巻き込まれる謎の事件を描いています。被害者の柏木君が自殺したのか、他殺なのかが不明なまま物語が進行します。警察は自殺と推定しますが、容疑者として同学年の不良、大出君が浮上。さらに、謎の告発文が届き、学校と警察の判断が混乱を招き、事件はますます複雑になっていきます。
注意
この記事ではネタバレを含む内容に触れていますので、これから読む方やネタバレが嫌な方はご注意ください。
第一部「事件」
事件はバブル景気に沸いていた昭和、クリスマスの夜に発生します。不登校になっていた柏木君が屋上から落下し、死亡しているのが翌朝発見されます。発見者は野田君で、彼がこの第一部の主人公です。
学校は事件の影響で終業式を中止し、生徒を解散させます。校長と藤野さんの父親(警察官)が、事件を自殺と推定し、調査は一旦終息するかに見えました。しかし、冬休み明けに事態は一変します。藤野さん宛に匿名の告発文が届き、学校側はこれを黙殺しますが、事態はさらに悪化し、ついにはマスコミに告発文が流出します。
野田君は次第に柏木君の死に取り憑かれ、家族との関係も悪化。そんな中、藤野さんとの偶然の出会いが、野田君の行動に大きな影響を与え、物語は裁判へと繋がっていきます。映画版では、この重要な裏の事件が欠落しており、そのために映画の評価が下がった要因となっています。
ここで野田君が死に魅入られたが自分の死より、親の死を考え実行をする寸前だった事が大きなポイントです。
第二部「決意」
この部の主人公は藤野さんです。新たな事件が発生し、人気のある生徒・浅井さんが交通事故で亡くなります。この出来事が、告発文を書いたのが浅井さんと親しい三宅さんではないかという憶測を呼びます。
混乱が続く中、第三の主人公、神原君が登場。柏木君の友達であると名乗る彼は、藤野さんが提案する「生徒による裁判」を支援します。生徒たちは裁判官や弁護人を決め、容疑者の大出君を被告として裁判が行われることになります。
藤野さんは最初、弁護人の候補でしたが、最終的には検事として活動します。一方、神原君が弁護人として名乗り出、野田君が助手になり裁判の準備が進んでいきます。しかし、藤野さんは次第に孤立し、追い詰められていきます。彼女が闇堕ちしていく様子は、映画では描かれているものの、救い手である野田君が機能しなかったため、映画の評価を下げるもう一つの要因となっています。
最終幕「裁判」
ここでは神原君が主人公としてスポットライトを浴びますが、その視点は助手の野田君や敵役として検事藤野さんを通じて描かれており。裁判中に野田くん、藤野さんの視点では進行させず、傍聴席から大人たちの視点からも描かれている事でも表現されています。そうして終盤になり検事である藤野さん、裁判官の井上君、弁護人の神原君、そして野田君が中心となって進行して事件最大の謎に迫っていくのです。
裁判の裏で進行する神原君と野田君の物語も見逃せません。特に、野田君が神原君の嘘に気付くシーンは、本作の重要なポイントとなっています。
結論
本作は、野田君、藤野さん、神原君という3人の主人公を軸に進行し、彼らの心の変化が物語の鍵となります。映画を観て面白くなかった、あるいは小説の長さに尻込みしている人も、ぜひこの素晴らしいミステリーを読んでみてください。