ゲゲゲの鬼太郎〜ゲゲゲの謎〜
評価:90点
目次
あらすじ(公式より抜粋)
昭和31年、日本の政財界を裏で牛耳る龍賀一族が支配する哭倉村。帝国血液銀行に勤める水木は、龍賀一族の当主・時貞の死の弔いを口実に、ある密命を背負って村を訪れる。一方、後に鬼太郎の父となる男は、行方不明の妻を捜すため村へやって来る。時貞の跡継ぎを巡る争いが繰り広げられる中、一族の者が神社で惨殺される事件が発生。それは恐ろしい怪奇の連鎖の始まりだった。
ここからはネタバレを含みます。
この物語は、鬼太郎の父・ゲゲ郎と水木のダブル主人公によって進行します。ホラーアニメとして分類されていますが、実際にはホラーとミステリーの要素を兼ね備えた「ミステリーホラー」と言えるでしょう。
ゲゲ郎がホラー担当、水木がミステリー担当となっていますが、物語の終盤では水木がホラーに近づき、最終的にはホラーとして完結します。
この物語は、神隠しや呪い、人々の怨念が絡む複雑な展開です。従来の悪い妖怪を倒してハッピーエンドとなるような鬼太郎の物語とは異なり、より暗く深いテーマが描かれています。
ミステリー要素
ミステリー担当である水木は、陸の孤島となっている隠された哭倉村へと足を踏み入れます。彼は当主争いや相続争いに巻き込まれ、犠牲者が出る中で、犯人や村に隠された秘密に迫ります。これは、まさに『八つ墓村』を思わせるミステリーの展開です。
村へ向かう途中、彼はトンネルを歩いて通り抜けますが、その先にはどこにでもありそうな田んぼが広がる寂れた村が待っていました。これは心霊スポットや『千と千尋の神隠し』を連想させ、トンネルを抜けた時点で現世を離れ、狭間の世界に迷い込んでいることを示唆しています。
物語の終盤、水木は見えないものが見えるようになり、それを「ゲゲ郎に近づいたから」と説明しますが、実際には狭間の世界に入り込んだからこそ見えているのです。最終的に、水木はその世界での出来事を忘れてしまいますが、これも神隠しの典型的な特徴です。
神話的な要素
物語の中で、水木は妻になろうとする沙代を連れ帰ろうとしますが、振り返り村に引き返してしまい彼女は魍魎となってしまい現世としての東京へ行く事が出来なくなります。これは日本の神話における黄泉の国の逸話と重なり、振り返ることで破滅が訪れることが示されています。
神話では死んだ妻を甦らせる方法は黄泉の国から立ち去るまで振り返らないことでした。現世にあと一歩の所で振り返ってしまい、妻の死に顔を見るのと同時に妻を永遠に失ってしまうのです。
それと同様に水木は沙代を失い妻を永遠に失うことになったのです。
物語の中盤でゲゲ郎から「逃げるな」と忠告されたにもかかわらず、逃げるべき時に逃げなかったことで悲劇が起こります。彼は一度目の帰還のチャンスを失いますが、二度目のチャンスをゲゲ郎から与えられ、それを達成したことで、ゲゲ郎の妻と鬼太郎を現世に引き寄せることになります。しかし、彼は妻を失い、狭間の世界での出来事を忘れるという呪いを受ける一方で、鬼太郎という子供を得るという祝福も受けます。こうして、呪いと祝福が交錯する物語となっているのです。
鬼太郎の元ネタ
今作での鬼太郎の元ネタは『封神演義』の哪吒(ナタク)であると考えられます。哪吒は母親の妊娠が長引いた末に生まれた子供であり、鬼太郎も同様に母が長く妊娠していた子供です。ゲゲ郎が世捨て人のように仙人として過ごしていたのも、哪吒の物語を彷彿とさせます。
漫画封神演義の哪吒は蓮の花の化身としても描かれており、今作の鬼太郎は幽霊族の血を吸い上げた桜の化身とも考えられます。
また、哪吒は強い力を持って生まれ人間の世界ではうまく生きていく事が出来ず仙人界へ行くことも、鬼太郎が水木の元で育てられても幽霊族の力があるため人間界では生きていけずに妖怪の世界へ行く事も同様です。
この事から物語の後に鬼太郎と水木は人間界で暮らす日々を送っても鬼太郎と別れる運命にある事がわかります。
ホラー要素
ここからは、ゲゲ郎こと鬼太郎の父親が担当するホラー要素について考えてみます。
物語では、龍賀一族というよりも時貞が権力欲に取り憑かれ、幽霊一族の怨念を溜め込んでいることがホラーの基本となっています。
今作では、井戸の底に集まった怨念が「狂骨」という妖怪になります。井戸に怨念が集まるというアイデアは、ホラー映画『リング』に登場する井戸と超能力者の貞子が元ネタであり、さらに鳥山石燕の江戸時代の妖怪画集『今昔百鬼拾遺』に描かれた妖怪を強化したものです。映画『リング』では、貞子が井戸に落とされ、その怨念が世の中に広がっていきます。また、呪いのビデオを見た人は死んでしまい、その後、呪いを次の被害者に伝えていく役割を担うことになります。こうして呪いが連鎖していくのです。
『ゲゲゲの謎』でも、井戸の底に女性がいる設定があり、そこから生まれた「狂骨」は人々を襲い、その怨念の力で襲われた人も新たな狂骨に変わっていきます。
昔、「桜の下には死体が埋まっている」というホラー伝説がありますが、今作のラストでも、同様に桜の下に幽霊族の死者たちが埋められていました。
まとめ
『ゲゲゲの謎』は、従来の鬼太郎作品とは一線を画したミステリーホラー作品です。鬼太郎の父親であるゲゲ郎と水木が巻き込まれる残酷な事件が、村で繰り広げられます。前半はミステリー要素が強く、後半になるにつれてホラーが強調されます。
平成ゴジラシリーズやポケモンアニメのような「お約束」のストーリーではなく、新たな鬼太郎像を作り上げたことは、大きな成功と言えるでしょう。
2人の父親にはパンドラの箱を開けたパンドラのように呪いが降り注ぎますが、最後の希望が残されることになります。
最後には作中での呪いが鬼太郎によって完全に浄化される事が分かり涙を誘います。
そのため、評価は90点としました。