映画

『プラダを着た悪魔』

『プラダを着た悪魔』
公開年:2006年
評価:92点

本作の主人公アンドレア(アンディ)はジャーナリストを目指しているものの、なかなか仕事が見つからない日々を恋人や友人と過ごしています。そんな中、ファッション誌『ランウェイ』の編集長ミランダの第二秘書として働くチャンスを得ますが、アンディはこの仕事をジャーナリストとしての経験を積むための一時的なものと考えています。

アンディはファッションに興味がない状態からスタートし、仕事の厳しさやミランダの理不尽な要求に苦労しますが、ナイジェルの仕事へのプライドと向き合い方を教えてくれ、ファッションへの姿勢を改めます。やがて彼女の成長に伴い、ミランダやエミリーからの評価も変わっていきますが、仕事にのめり込むにつれて恋人や友人との関係は悪化していきます。

やがて、アンディはミランダからエミリーに代わってパリ出張に行く事になったとエミリーに言いなさいと指示されますが、エミリーがそれをどれほど熱望していたか果たせないなら絶望してしまうとミランダにいいます。ですが、アンディはエミリーに伝える決断をします。それが原因でエミリーとの関係にも溝が生じ、さらに恋人ともパリに行く直前に別れることになってしまいます。パリ滞在中にミランダ失脚の陰謀を知ったアンディは、ミランダに知らせようとしますが聞き入れられません。ここでもアンディはミランダの熱望していた立場を守ろうと動きますが、結果的にミランダは自身の地位を守るため、ナイジェルの昇進を犠牲にします。アンディはその冷徹な判断に疑問を抱きますが、ミランダから「誰もが憧れる」「あなたも同じ選択をした」と指摘され、仕事を辞める決意をします。

その後、アンディはジャーナリストへの道に戻り、再び恋人とも親しい関係に。ミランダに別れを告げたものの、アンディが彼女に憧れを抱き続けていることが暗示されています。

目次

この作品が伝えること

この物語は、アンディの成長を軸に「仕事とプライベートのどちらを選ぶのか」がテーマとして見えるかもしれませんが、私は異なる見解を持っています。物語の最後でアンディはミランダの元を去り、元恋人と親しく話しています。これを見ると、プライベートを重視したように思えます。しかし、アンディがジャーナリストへの道を歩む姿が描かれているのも見逃せません。また、元恋人の行き先についての会話があるものの、彼女が一緒に行くとは言っていません。つまり、アンディはミランダのようになることを選んでいるのです。

このことは、最後の会話に表れています。

「もしも、この世界を望んでいなかったら?」
「バカを言わないで、誰もが望んでいることよ。誰もが憧れているの」

アンディはミランダに憧れており、ミランダもまたアンディが同じ選択ができる人間だと認めています。ミランダから離れる決断をしたのも、アンディが自分のキャリアを切り拓くためです。

物語中にはアンディの親友リリーがギャラリーを経営する場面があります。リリーの姿はミランダの姿と重なります。また、アンディの恋人が最後に出世している描写も重要です。ナイジェルが「私生活がダメになると出世する」と語っていたように、アンディと恋人は恋人関係を越え、対等な「親友」として理解し合う関係になったのです。

アンディの成長は、武道の「守破離」にも例えられます。彼女はミランダやナイジェル、エミリーの教えを守り、次に自分のスタイルを取り入れていき、最後にはミランダから離れる決断をしました。この「守破離」のプロセスは、アンディが面接を受けた際にミランダからの「アンディを雇わないなんて馬鹿のすること」というメッセージに象徴されています。アンディが将来ミランダと同じ存在になると認められていることが、この言葉からも読み取れます。

アメリカ社会の闇

本作には、アメリカ社会の厳しさも垣間見えます。ミランダが部下に理不尽な要求をする姿は、2024年の日本では考えにくいものです。しかし、アメリカでは上司に気に入られないと退職を迫られることも多く、学生時代から「強い者が弱い者を支配する」という風潮が社会人になっても続きます。これは、厳しい上下関係が社会的に根付いているアメリカ社会の投影といえるでしょう。

この物語は、アンディの成長物語であると同時に、アメリカの職場文化や競争社会の厳しさを浮き彫りにした作品でもあります。

アメリカ社会の貴族社会

ヨーロッパには、変わらない5つの階級(侯爵、公爵、伯爵、子爵、男爵)がありますが、その中で評価される手段はスポーツなど「努力して成功すること」でした。テニスやフェンシング、ゴルフが貴族のスポーツとされたのもそのためです。一方、アメリカでは「仕事」が評価対象であり、貴族のように顔や血筋として受け継いだ物ではなく、自己の力で得たものを誇りにします。平民が貴族に憧れていたように、アンディ(平民)は仕事の成功者であるミランダ(貴族)に憧れるのです。

この流れは日本でも似た形で広がっています。2024年の日本では、インフルエンサーに憧れて副業や投資、FIREや独立を目指す人が増えています。これもまた、アンディがミランダに憧れて努力する姿に重なります。

社会人になり、上司と良い関係を築くことで昇進するのは、日本の企業でもよく見られることです。ただし、こうした努力の結果としてプライベートが犠牲になることもあります。また、インフルエンサーに影響されて副業を始めたことが原因で離婚するケースも増えています。

貴族やミランダのような生活に憧れる人は多く、そうした憧れから挑戦する姿勢はいつの時代も消えることはないでしょう。

映画のキャッチコピーとメッセージ

  • こんな最高の職場なら、死んでもいい!
  • こんな最悪の上司の下で、死にたくない!
  • 恋に仕事にがんばるあなたの物語

キャッチコピーに反して、誰も「死んでもいい」とは考えていません。実際には、アンディも他の登場人物もミランダを尊敬し、仕事に誇りを持って取り組んでいます。恋も大事にしつつも、最終的にはキャリアや自己実現のためにプライベートを犠牲にする選択をしています。

本作は、仕事に対する姿勢や理想像を描きつつ、アメリカの厳しいビジネス社会の一面も垣間見せてくれる作品です。

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